長編

□過去
9ページ/13ページ




一方通行は実験協力の為、研究所に来ていた。
テストルームを出ると芳川が書類を見ていた。
彼女の周りには雑多な書類が積み重なっている。
芳川があら、と顔をあげた。

「来賓室に可愛らしいお客さんが来てるわよ」
「客だァ?」
「意外ね。きみに仲の良い同年代の子がいたなんて」
「……ナマエか」

研究所の名前は教えてあったがまさか直接訪れるとは。
一方通行は顔をしかめた。
彼女にはあまり研究所に関わってほしくない。

「きみの彼女にあたるのかしら?」
「……放っとけ」

来賓室のドアを開けるとナマエがソファに座っていた。
客人として扱われていることに緊張しているらしい。
ソファのゆったりとした背凭れに抗うようにして姿勢を正している。

「よォ」
「一方通行……」

見慣れた一方通行の姿にナマエはほっとしたような顔をした。

「学校が午前中で終わったから迎えに来てみたの。もういいの?」
「あァ、もォ終わりだ。ちょォど昼時だし、飯食って帰るか」
「うん!」

ナマエは荷物を纏めて立ち上がった。
受付を通りすぎると、一方通行は言った。
低く絞り出すような、何かに耐えるような声で。
ナマエはそういった声を出す一方通行を初めて見た。

「此処はオマエが来る所じゃねェ」
「……それは、私が無能力者だから?」
「ナニ勘違いしてやがる。学園都市の研究者の連中はクソッタレが多いンだよ」
「……」
「少なくとも俺はロクでもねェ目にあってきた」
「……芳川さんも?」
「……マシかもしれねェが言い切れねェよ」
「わかった」

ナマエは一方通行を安心させるように肯定した。
そして近くの公園を指差した。

「今度こんな機会があったらそこのベンチで待ってるね。携帯に連絡いれるから」
「あァ」

明るく開放的な公園だ。
そこならば大丈夫だろうと一方通行は首肯した。



昼食を摂りに向かった先は地下街だった。
時間帯のせいかそこは混んでいる。
不意に人の波がナマエを浚った。

「あ、」

彼女はバランスを崩しながら後方の人混みに消えてしまった。

「……ナマエ?」

振り替えって辺りを見回す。
俺が立ち止まったことで後ろにいた人間は迷惑そうに避けていった。
ナマエの身長は高い方ではない。
どうしたって一度人混みに紛れてしまうと彼女の姿を見つけるのは難しい。
ナマエの姿を探したが案の定、彼女が見つかることはなかった。
連絡すべきか。
携帯を開く。
いや、もう少し捜してみるか。
携帯をポケットに直し辺りを見回した。
ナマエの特徴は人だかりに溶け込んでいた。

「……」

一方通行の額を冷や汗が伝う。
言い知れぬ不安感があった。
やっぱり連絡しよう。
ポケットに手を突っ込んだところでポン、と肩を叩かれた。

「一方通行、」

ナマエだ。
彼女は小さく息を吐いた。

「真っ白いからなんとか見つけられたよ」
「……」
「もしかして顔色悪い?大丈夫?」
「問題ねェ。オマエちっさくて探し辛いンだよ」
「言うほど小さくないよー」

ナマエは軽く憤慨したが、すぐにふっと微笑んだ。

「ほら、行こ」

ナマエが手を差し出した。
少し戸惑いながらその手に触れる。
握り返してくる彼女の手に、少しずつ力を込めた。
熱をもったその手は柔らかかった。
ナマエの性格となんとなく似ている。
皮膚を通して彼女の体温が伝わってきた。

「これではぐれないよ」
「あァ」
「……」

ナマエはまじまじと一方通行の手を見た。
一方通行は照れくさくてどぎまぎしてしまう。

「オイ?」
「やっぱり男の子の手だね。ごつごつしてる」
「は……?当然だろ」
「そうかな。私より大きくて安心する手だね」

そうだろうか。
一方通行は思案する。
自分はといえば柔らかいナマエの手の方が落ち着けそうな気がする。
そう考えたところで、それが相手あってのものだと気がつく。
つまりは大きさも感触も関係ない。
その手の持ち主が彼女であれば良いということだ。

「……早く行こォぜ。腹ァ減った」
「あ、うん」

一方通行は繋いだ手に目を落とした。
非人道的な研究所をたらい回しにされたこれは、消して綺麗な手とは言えない。
しかしナマエは安心する手と言ってくれた。
自分が彼女を大事に思うくらい、彼女は自分を思ってくれるのだろうか。
一方通行は握った手にそっと力を込めた。




to be continued...
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ